001『パン屋さん』

妻を笑顔にする100の試み

ぼくは苦心している。妻を笑顔にするため、苦心している。

夫が妻を笑顔にしようと努めることは、別に自慢できるようなことではありません。当然のことでしょう。わざわざ、その苦心を文にしてみせて、得意気な顔をしたとしても、誰からも称賛などされないのです。当たり前なのですから。結婚式で、皆さまの前で、宣言したわけです。愛して守ると。だから、どれほど苦労したとしても、夫として妻を笑顔にしてやろうと努めることは当然のことであって、なにも誇れることではないのです。勝手に結婚を決めて、図々しくも皆さまを招待して、好き勝手に宣言したのです。愛して、守ると。だからどれだけ努めても当たり前なのです。

しかし、ある程度の品のある方々には確かな事実かと思われるのですが、当たり前のことを当たり前にする、これは案外と難しいことなのです。

ましてや、それを数十年も続けようなんて、できてしまえるなら聖人君子と言ってしまっても差し支えないでしょう。

もちろん、ぼくは立派な人格を備えているわけでもありませんから、失敗します。

ぼくが失敗すると、妻は怒ります。

もちろん、怒る妻も可愛いのですよ。と友人連中らに言って笑ってお酒を飲んで、それでめでたしめでたし、としてしまってぐっすり眠ることもできるのですが、妻が怒らないのであれば、それが最善なのです。

ぼくもせっかく生まれたのですから、少しでも幸せに、一秒一秒たしかにチクタク生きていたい。

妻が怒ってしまえば、ぼくの心に灯る優しい小さな幸せのローソクなんて、ひとたまりもないのです。

ささやかな、小さな幸せ、それを守るために、妻を笑顔にする。そのための努力は怠らないのです。せっかくこの世に生まれたのですから、幸せになるための努力を怠ることは、自傷行為に等しいでしょう。

妻を笑顔にするための百の試みがもたらすは、色も形も違う百の花でしょう。

ぼくの見つけたその一葉一葉を文章という額縁に入れてしまって、好き勝手に飾ってやろうと思ったのです。

001『パン屋さん』

日曜日を幸せに過ごせたなら、その結婚を正解と言ってしまっていいでしょう。

次の日曜を楽しみに、また仕事に励むことができますから。人生のへそは何処か? と問われれば、それはきっと日曜日でしょう。

幸せな日曜日の過ごし方として、まず間違いのない過ごし方はパン屋さんに行くことでしょう。

早起きしてモーニングのために行っても良いですし、少し遅く起きてランチのために行ったって良いのです。夜でさえなければいいのです。

パン屋さんの良さって、男にはいまいちピンとこないものです。

女性というのは男性よりも一歩も二歩も先を行っているものですね。遊び方が洗練されていると言ってみてもいいのかもしれません。

新しいパン屋さんに行ってみたり、定番のパン屋さんに行ってみたりして、楽しむのです。

不思議とそれだけで、日曜日がいいものになる。女性という生き物はともかく小麦粉を愛しているのですね。食いしん坊だと言っているわけではありません。彼女らは上品なのです。

女性は、ぼくたち男性の何歩も先を行っていますから、彼女たちから大いに学ぶべきなのです。

彼女たちから学べる良いパン屋さんの条件の一つに「小さなパン」を発見したのです。

可愛らしい小さなパンが、たくさん置いてある店こそ最上です。

彼女らはあまり量を食べませんけど。種類は多く食べたいのです。

だから、なるべくたくさんのパンが食べられるよう、小さな可愛らしいパンがたくさん置いてある店が最上の店ということになるようです。

買ったパンの全てに妻の歯形がついて、彼女の頬にクロワッサンの薄皮がはりついて、彼女が満足な笑顔を見せたとき、日曜日が成功したことをぼくは知るのです。

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