デブの始まりはいつも突然に

ぼくは今、デブのどこにいる？

　いよいよ、デブであることをなんとも思わなくなった。

　痩せすぎよりかはいいだろう。くらいにしか思えない。

　いやしかし、僕ごときがデブを名乗っていいのかは疑問である。

　そんなことを考えながら目を閉じると、大阪で長年デブをやっている先輩の顔とシルエットが浮かんでくる。

　僕はまだ、デブではないのかもしれない。

　僕がデブなら、彼はなんと呼ばれるのだろうか。

　デブ→デブラ→デブラゴン。だろうか。

　それとも

　デブ→ダブルデブ→トリプルデブ。

　だろうか。

　服のサイズにちなんで、

　デブ→Xデブ→XXデブ

　だろうか。

　彼はきっとデブラゴンを選ぶと思う。

　優しい先輩なんだ。

　（デブはみんな優しい）

デブの入り口に立った

　デブの入り口に立ったのだと思う。

　お腹が出ている。

　柔らかいお腹だ。

　間違いなく、そのへんのおっぱいよりかは柔らかい。

　ホルモン。って感じだ。

　ミノじゃない。上ホルモンだ。

　一番おいしいやつだ。

　（この発言がデブの入り口なのかもしれない）

　体型は、心の一番外側だと言えるかもしれない。

　お腹を触ってもらえば、僕がどれだけ優しい男かすぐにわかってもらえるだろう。

　このポニョポニョのお腹は、「身から出たサビ」と言うよりかは「桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す」がピッタリかもしれない。

　きっと、特別な努力なんかしなくとも、柔らかいお腹のまわりにはたくさんの人の笑顔の花が咲くことだろう。

　（やっぱり、デブを拒否する力が衰えている）

もう多分、ずっと、デブ

　デブという大きな海の波打ち際で、さざ波に足をつけてみてキャピキャピはしゃいでいる少年が見えるだろうか。

　松尾少年だ。

　生活習慣病の荒波に挑むこともなく、かといって鍛えぬかれた身体をギャルに見せつけながらキャピキャピとビーチバレーを楽しむわけでもない。

　出会う女性出会う女性に、

　「もうちょっと痩せたほうがいいんじゃない？」

　という言葉をかけられるたびに、ポニョポニョのお腹をさすりながらはにかむことしかできない哀れな少年。

　あの少年は死ぬまでずっと同じ毎日を繰り返す。

　美味しいご飯を食べたら、しっかりデザートも食べて、珈琲を飲んで落ち着き、痩せない程度の適度な運動をして、眠くなったら寝る。

　シンプルな人生だ。

　激しい筋トレをこなして、糖質を制限して、腹筋を割ってやろうだとか、そんな夢を見ることもない。

　この心地よさはいったいなんだろう。

　もしかしたら、やっとちゃんとデブになれたのかもしれない。

　やっぱり、体型は心の一番外側なんだろう。

　柔らかいお腹が、気持ちいい。