やっとやっと、夜が秋めいてきた。
今日、夜ご飯を食べ終えて散歩に出ると、気持ちのいい秋風が吹いていた。
気温が下がったからだろう、急激に虫刺されが増えた。あまりにも暑すぎると蚊が飛ばないと知ったのは、今年のことであった。今後、蚊取り線香は夏の言葉ではなく、秋の言葉になるだろうと思う。
蝉だって、暑すぎると鳴かないらしい。気温が三十四度をこえたあたりから、身の危険を感じて鳴かないようになるらしい。たしかに、今年の蝉はあまりうるさくなかった。雨の方がうるさかった。
人がまねいた温暖化なのか、ただ地球が繰り返す寒暖のサイクルなのか、知ったこっちゃないが、今年の夏は暑すぎた。そしてしつこすぎた。雨も降りすぎた。稲光は走りすぎた。
昔は、もっと丁寧に四季を感じられた。
蚊に刺されるのはやっぱり夏であって、蝉が鳴くのも当然夏であった。ゲリラ豪雨は中学の頃あたりからあったけれど、ゲリラ豪雨の勢いのまま、半日以上も雨が降り続けるなんてことはなかった。
秋に蚊に刺されるなんて、どうかしてるぜ。としか言いようがない。秋に蚊取り線香を出すなんて、日本人として抵抗を持って当然である。どうせすぐ冬がくるから、と言って、無抵抗に刺され続けるほかないではないか。どうかしてるぜ。
今夏の終わりは、季節と社会の歯車がガクンとひとつ、外れてしまったような気のするものであった。
あまりにも夏がしつこく続くから、夏用のフォーマルな服を買い足しに行こうと出かけてみても、売り出されているのは秋服アキフクAKIHUKUばかり、夏服と言えば、売れ残りのセール品、XLサイズやSサイズ、わけのわからん色味のものばかり。
けっきょく、厚手のジャケットをやせ我慢して着るはめになった。
企業側の言い分はわかる。夏がしつこいからって、年間スケジュールを簡単に動かせるはずもない。彼ら彼女らに文句を言ったって仕方ないだろう。なんせ僕も、業界は違えど彼ら彼女らと同じ社会の歯車なのである。
一番ひどいなと思ったのが、月見バーガーである。
今年は月見関係の商品が各企業から次々に発表された。どの企業の月見商品を見ても、企業努力がうかがえる。美味しいこと間違いない。月見戦国時代の幕開けかに思えた。
僕は月見関係に目がないから、すぐに食べた。
マックの「芳醇ふわとろ月見」もすぐに食べた。間違いなく歴代の月見バーガーの中でもトップの実力であった。
しかし悲しいかな、お肌ヒリツク灼熱の夜に食べた月見バーガーは、とてもじゃないがお月見モノとは思えなかった。
遅れて鳴きだした蝉の声を背景に、蚊にめった刺しされながら食った月見バーガーは、まるで常夏の夜のビーチで食べる、チーズロコモコであった。ましてやサイドメニューはプリプリエビプリオである。完全に夏の思い出、楽園ベイベーである。
やっと、やっと夜が秋めいてきた。
秋を存分に楽しもうじゃないか。
収穫の秋である。もう大人だ、丁寧に生きたい。
丁寧に生きるとは、こと日本にあっては季節とともに生きることである。
「チーズロコモコ」もとい「芳醇ふわとろ月見」も、まだ販売されている。
身体の許す限り短期間で幾つも何度も食ってやろうと思う。
うかうかしていたら、すぐに冬が来ちまう。