ぼくの妻は、ぼくのブログをけっこう楽しんでいる。
昨日の記事も、妻はリビングのローソファで寝ころがりながら、
「T.マツオニールだってww、ウッキャッキャwwww」
と、足なんかもしっちゃかめっちゃか放りだしたあられもない姿で楽しそうに笑いながら読んでいた。
喜ぶ妻はかわゆい。
しかし、やはり男女はすれ違うものなのだな。と、思わざるをえないことが起こった。
妻の「さあ、寝ましょうか」を合図に、隊列を組んで行進し、玄関の鍵が三つかけられていることを指さし呼称で確認。回れ右をして寝室に向かい床に就いた。
電気を消し、布団をしっかりとかぶって、「おやすみなさい」と声を揃えて、瞼を閉じた。
いつだって一分たらずで寝息をたてはじめる妻が、なにやらモゾモゾと動いている。
瞼を持ち上げて妻の方を見ると、妻はぼくに背中を向けて寝ころがっていた。
その妻の後頭部の向こう側から光がこぼれている。まるで真っ暗な夜の山むこうに見える街灯りのようだった。
「寝れないの?」
ぼくが声をかけると、山がぐるんと転がって、妻の顔がこちらを向いた。
妻は眉をひそめて唇を尖らせていた。
光を放っていたのはやっぱりスマートホンで、どうやらインスタグラムを見ているようだった。
そして妻は、衝撃のひと言を言った。
「たいちゃんのブログのせいで、ベーグル食べたくなっちゃった」
寝耳に水、青天の霹靂、やぶからスティックである。
耳を疑った。
ぼくはベーグルをこきおろしたはずだった。
ベーグルがダイエットに向いてないとも書いた。
妻は、”ただベーグルの話題が出た”というだけで、眠れなくなるほどにベーグルが食べたくなったのである。
例えばぼくが、ベーグルの魅力をつらつらと書いたのなら話はわかる。
チョコレートコーティングされたベーグルにかじりついた時の、もっちゃりとした噛み心地、上唇の下でチョコレートコーティングが砕ける愉快さ。
小麦の味の強い生地と、生クリームの相性の良さ。
食べ終えた後、しっかり食べたなと脳が認識しているにも関わらず、思いのほかスッキリした感じの胃の調子。
そういった文章はどこにもなかったはずである。
”ベーグル”という文字を見ただけで眠れなくなるほどベーグルを食べたくなり、インスタでベーグル屋さんを探す妻は、重度のベーグル依存症であると診断せざるをえない。
しかし妻いわく、禁断症状ではけっしてなく、「女子はこうなのだ」だそうである。
恐るべしベーグル。恐るべし女子。
今日もきっと、妻はベーグル屋さん探しをしながら夜を明かすのだろう。