ビュッフェランチ試験

その後の、お尻

TDR試験(東京ディズニーランド試験)をご存知だろうか。

これは、女性が男性の器の大きさを測定するために行う試験のことである。

男性を長時間ストレス環境におき、その反応を女性が一方的に観察し、評価する試験である。

通常、男性の側に試験であることが事前に伝えられることはなく、あくまで男性の素のままの反応が評価されることになる。

試験は、東京ディズニーランドに限定されているわけではなく、ユニバーサルスタジオジャパンで行われることもある。

また、小試験的に近場の有名な行列のできるラーメン店等で簡易的に試験がおこなわれる場合もある。

試験によって得られる男性のイメージと、試験前から女性が抱いていた男性のイメージに、差異はほとんどないとされている。

そのため、この試験の対象になった時点で、男性は女性にかなり脈があると期待することが一般的である。(ただし、小試験については、脈がなくても実施されることがある)

なんともひどい試験である。

TDR試験で評価されるのは男性ばかりである。

チケットの手配から始まり、順番待ち時間の話題の豊富さ、アトラクション搭乗数と休憩時間の長さはトレードオフの関係であるが、どちらも最大限を求められる。支払いの割合から支払い方法、思い出のお土産に何を買うか、評価される要素はあまりにも多い。

TDR試験までのデートは、自動車免許の取得に喩えるなら仮免許試験である。TDR試験は路上教習だろう。

今までに学んだ彼女に関する知識への理解度が、一度のデートですべて試される。

ぼくはハッキリ言ってこの試験が得意だ。完璧にハッピーな時間を約束する自信がある。それでも、僕はこの試験が嫌いだ。

あまりにも男性側が不利である。

理屈はわからないけれど、TDR試験においては、どれだけ一方的に女性から採点されても文句を言える気がしない。

女性が少女のような顔でテーマパークを歩くからだろうか、テーマパークでは女性を楽しませろ。と、DNAにでも刻まれているのか、逆らう気にもなれない。

なにか、男性側から女性を評価するのに適した試験を用意しなければ。と思い立って考案したのが「ビュッフェランチ試験」である。

女はみんな女優であるが、ビュッフェに連れて行きさえすれば丸裸である。(実際に丸裸にできるわけではない)

この試験は、とにかくランチでないといけない。ディナーだと、女性の本当の姿は見えない。当日の昼ご飯の影響を受けるし、次の日の朝の予定にも影響を受ける。

第一、ディナーでは我々男性はソワソワしちまって、集中力・判断能力がほとんど機能しないので正確な評価をすることができない。

とにかく、ランチだ。

女性は、ランチで食べ過ぎても、夜ご飯をスプーン一杯のマヌカハニーにすればいいと考えるから、油断させるならランチ一択である。

本来の女性の姿は、お昼どきでないと見ることができない。

はじめに、男の幻想を一つ潰しておかねばなるまい。

本来の女性の姿というものは、お酒に酔って頬っぺたを赤く染め、夜の街頭をハイライトに入れた潤んだ瞳で見上げてくる顔でもなければ、腰を揺らしながらエメラルドグリーンのドレスを脱ぎ捨てる瞬間に見られるようなものではない。

ビュッフェランチの三皿目でようやく化けの皮が剥がれるのだ。

まず、ビュッフェランチを断られたら、論外である。

彼女はまだ君に心を開いていないか、初めからその気がなかったということだ。

誘いにのってくれたらお店選びだ。ビュッフェランチは、とにかくケチってはいけない。

食べなきゃ勿体ない。と思う値段でないといけない。

とにかく、席についてビュッフェスタートである。

一皿目はきっと一緒にとりに行くだろう。まず、彼女の一皿目をしっかりと見てやろう。

彼女の一皿目こそ、彼女が男に見せたい自分の姿である。

どんな勝負下着なんかよりもよっぽど正確に、彼女の承認欲求がそこに現れる。

大切なことは、ここで彼女を評価することではなく、ただ褒めることである。

「盛り付けがキレイだね」とか「バランスがいいね」とか「そんだけしか食べないの?女の子だねえ」とかである。

二皿目は、盛り付けも栄養バランスも少しだけ崩れるだろう。それこそ、君が抱いちまった後の彼女の姿である。下着こそ前夜の夢のような時間の名残であるが、化粧はさっぱり落ちている。

君がしっかり女に惚れていれば、二皿目はとんでもなく可愛く見えるだろう。

もしも二皿目が、一皿目と変わらないくらいに綺麗に盛り付けられているなら、彼女はきっと、抱かれちまったその次の朝、君よりも三十分も早くベッドを抜け出して、ちゃっちゃとメイクをして、昨晩と同じ顔で「おはよう」と熱いキスをしてくれるだろう。

二皿目はノーコメントが無難である。なんなら一皿目がとにかく素敵だったと褒めてやった方がいい。

さて、ついに三皿目である。

三皿目の姿こそ、付き合って半年後の彼女の姿である。

少しの乱れもない三皿目であれば、まだ二人の気心は知れていない可能性が大である。告白はまだ早い。

三皿目が荒れていたら、そこそこの関係値であると言える。

乱雑に置かれたパスタが、プレートの仕切りをまたいでいるだろうか、彼女は半年後、君の家のソファで、パンツが見えるのもおかまいなしに、そのパスタみたいに足を投げ出してインスタをフリックする。

君がオススメしたビーフストロガノフが端に少し添えられているかもしれない。彼女は君の好みを半年後もしっかり覚えているだろう。

一皿目のときも二皿目のときも品切れだった油淋鶏を君の分までとってきてくれているかもしれない。彼女はきっと、表向きでは協調性を重んじながらも、君の意見はろくに聞かずに、結婚から出産に至るすべての段取りを強い意志のもとやり切るだろう。

ビュッフェランチ試験を行う場合、それなりの覚悟は必要かもしれない。

そもそも他人を観察して採点するという点において、我々男性は、女性に比べて大きく遅れている。

こちらがあちらを観察しているとき、あちらはすでにこちらの観察を終えているかもしれない。

なんせ我々男が女性の前で愚かになる手段は無限にある。

そもそもビュッフェランチでカッコイイ姿を見せるなんて、TDR試験よりもはるかに困難な気がしてくる。

女性を採点しようなんて、初めっから無茶な話だろうか。