スイッチバック式人生飛行術

松尾式自分探索

スイッチバックという言葉をご存じか。

鉄道が急な傾斜を上るための技術のことで、私はこのスイッチバックという言葉とその仕組みをとても気に入っている。

特に折り返し型スイッチバックを気に入っている。

急な傾斜を真っすぐ上るというのは、鉄道にとってはとても難しいことである。

スキーやスノーボードの経験のある読者は少なくないと思う。

雪山を滑って下る場合、速度が出すぎないようにジグザグに下ると思う。それとまったく逆を想像して頂きたい。鉄道が山をジグザグに上っていく方式を折り返し型スイッチバックと云い、その方式はたいへんステキであると私は思う。

私の人生も折り返し型スイッチバックであると信じたい。

毎日が同じようなことの繰り返しである。

昨日と同じような問題に今日も頭を悩ませている。

一昨日と同じ段差につまづき、先週から同じ音楽を繰り返し聞いている。

毎日、机の観葉植物に霧吹きを吹きかける。毎朝、コンビニのブラック珈琲を水筒にうつす。

同じような日日を繰り返してはいるが、ふと去年の自分を振り返ると不思議とえらく低い所にいる。いつの間にここまで登ったかなと感心することがあると思う。

これぞまさにスイッチバックである。

去年の私より今年の私は友人を大切に思っているし、去年の私より今年の私の方が上司を助けたいと思っている。部下も繰り返す日日のなかで着着と力をつけてくれた。去年の私は走ることを習慣にしていなかったし、去年の妻はもっと怖かった。

「ゆるい幸せがだらっと続いたら、悪い種が芽をだして、きっとさよならなんだ」とアジアンカンフージェネレーションはソラニンで歌ったが、ゆるい幸せの中で何に気づけるかが人生の急所であると思う。

蒲焼きさん太郎の美味しさに気づけただろうか、うまい棒に感動しただろうか。満開の桜だけでなく、葉桜も楽しんだであろうか。雨が続いたら水たまりを蹴飛ばして、小学生の頃の自分に「大人になったぜ」と挨拶をしただろうか。前の職場の先輩からしつこくLINEが届く幸せを、東北に越していった友人からの連絡を大切に思っているだろうか。

生死のかかった特殊な状況に置かれた人間を観察する映画や小説よりも、日日のなかでどのような幸せに気づけるかをテーマにした映画や小説を私は好む。

もしも、繰り返す日日に負けてしまいそうな友人がいるならば、私に連絡を入れて欲しい。

繰り返す日日もけっこういいものだなと、笑って話したい。

連絡をくれた友人には、スイッチバック式人生飛行術を伝授しよう。