水がうめぇとき

その後の、お尻

ビックルがうめぇ。

幼い頃の私にとって、ビックルはとてつもなくうまかった。マミーよりもうまかった。

今になって思う、あの頃ビックルがマミーよりも格段にうまかったのは、ビックルがビンに入っていたからだろう。

紙パックに入ったマミーでは太刀打ちできるはずもない。

保育園を卒園し、小学校に入学すると「フキゲン」という飲み物を好むようになった。私の記憶が正しければ、これはビックルに炭酸を入れたような飲み物である。

小学四年生あたりから、チェリオが頭角を現す。ライフガードを初めて飲んだときの衝撃はすさまじかった。

なんとなく大人の仲間入りをした気がした。

中学に入学すると、ライフガードはなんだかクドイ感じがして、コーラを飲むようになった。

きっと、子どもだけでマックに行くようになったからだと思う。

なんてったって、チーズバーガーにはコーラでないといけない。

中学二年だったか、国語の授業、「食感のオノマトペ」で卵かけごはんとコーラの相性がうたわれていた。

卵で口がマッタリしているところを、シュワ―っとコーラが流れていく。これがおいしい!

食感のオノマトペ

これこそコーラの魅力である。そして、コーラがほとんど全ての食べ物に合う理由もおそらくコレだろう。

考えてみれば何を食べていたって、口や喉はしだいにマッタリしてくる。シュワ―っとコーラを流せば間違いないのだ。

社会人になると、コーラがビールにかわる。

理屈は同じである。シュワ―っとビールが流れていくのがたまらない。

しかもビールは、口や喉がマッタリしていなくたって美味い。

コーラみたいに甘くないから、寿司にだって合う。

二十代の前半はビールの天下であった。

二十代も半ばになると、ワインを飲みだした。と言っても、勝負のときにしか飲まない。

ワインを飲むのは、女とサシで酒を飲むときだけである。

男と飲むときにワインなんて飲まない。

男と飲むときは梅酒か柚子酒を飲んだ。なんだったらカルピスサワーを飲んだ。

二十代の後半から、日本酒にハマる。

「作」こそ日本酒の極みであり、三重の誇りである。

しかし、結婚して肩身が狭くなると「作」なんて飲んでいられない。なんてったて「作」の700mlでベーグルが四つも買えるのである。

許してもらえるわけがない。

結婚してからはもっぱらチャミスルである。なんてったて安い。360㎖で300円。しかもアルコール度数は16度と、手っ取り早く酔っぱらうにはもってこいである。

しかし、三十を目前にした男は皆そうであると思うが、とにかく忙しい。

毎日酔っぱらっているわけにもいかない。

そこで、満を持して登場するのが珈琲である。

ビジネスシーンにおいても、カジュアルなシーンにおいても、とにかく珈琲が好きでさえいれば、良い時間を過ごせる。

さて、私の飲み物遍歴を披露させていただいたが、読者の皆さんも同年代であるから似たり寄ったりだろうと思う。

ここにまだ登場していない名脇役、影の実力者がいる。

そう「水」である。

誰だって言ったことがあるはずだ。

「やっぱり水が一番うまい!」と。

ジュースを飲みすぎてだるいとき。

お酒を飲みすぎてふわふわしたとき。

珈琲を飲みすぎて気持ちが悪いとき。

コップ一杯の水が一番おいしい。

しかし、あくまで水は脇役であると私は強く主張したい。

時々、普段から水ばかり飲む男がいる。皆が珈琲やジュースを飲む中で一人だけ水を飲むやつがいる。

「やっぱ水が一番うめえわ」とか言いやがる。

水はどこまで行っても水である。

本来、おいしくなんかないのだ。

これはあくまで私の発見した理論だが、水がうまいのは身体が悪いときだけである。

サウナで整った後の水はうまかろう。サウナで身体を悪くしたからうまいのだ。

ジュースを飲みすぎたとき、珈琲を飲みすぎたとき、酒を飲みすぎたとき、みーんな身体を悪くしたから水を美味しく感じるのである。

五体満足、若々しい身体であれば、ただの水がコーラやビール、珈琲よりおいしいわけがないのである。

お茶にだって勝てるわけがないのだ。

だって水なのだから。

だから私は、なんとなくスカした感じで「水が一番うめえわ」なんて言う男は信じない。

そんなやつを横目に見ながら飲む、シュワ―っとしたコーラが一番うめぇ。