もしも、誰にでも一人だけ会えるとしたら、会いたい女の子が一人いる。
ぼくが高校二年生のとき、身体の大きな女の子がいた。
その子は、たぶん高校生だった。女の子にしては大きめな身体。ではなく、とんでもなく大きな身体の女の子だった。らしい。
らしい、としか言えない。
ぼくはその女の子を見たことがないからだ。
ぼくには、(幸せなことに)身長の高くてキレイな女友だちがいる。ちょっとぽっちゃりした可愛らしい女友だちだっている。
でも、その子はどちらでもなかった。その子は、とにかく身体が大きかった。らしい。
本当に、とてもとても身体が大きくて、ちょっとやそっとのことじゃビクともしないくらいに大きな女の子だった。らしい。
ぼくはその子と会ったことがない。その子の名前だって知らない。
だけど、ぼくはその子に会いたいと高校二年生の夏からずっと想い続けている。
高校二年生の夏の休み時間、廊下に出ると、隣のクラスのものすごく背の高いバレー部の同級生がめずらしく話しかけてきた。
そいつは本当に背が高かった。ぼくは首が痛くなるくらいにのけ反ってそいつを見上げながら訊いた。
「どうしたんだい?」
そいつはテレタビーズの太陽みたいに遥か上空からぼくを見下ろして言った。
「昨日、駅で女の子がたいせいを探していたよ」
中学の同級生だろうか?メールすればいいのに、どうしてわざわざ駅でぼくを探すんだ?
「なんて名前の子だった?」
「名前は聞かなかったよ。すぐに行っちゃったんだ」
どうしてぼくのことを探している女の子が名前も名乗らずにすぐに立ち去るんだ?
「ほんとうに僕のことを探していたのかい?」もう首が痛い。限界だ。
「訊かれたんだよ。たいせいを知ってるか?って」
「訊かれて、知っているって言ったのかい?」
「言ったよ」
「で?」
「行っちゃったんだ」
「行っちゃった?」
「うん。たいせいを知っているって言ったら、その子は行っちゃったんだ」
なんだ、じゃあやっぱり中学の友だちじゃないのか?
「どんな子だったんだい?」
そいつは、ちょっと笑いながら、
「むちゃくちゃ身体の大きな子だった」
と言った。
むちゃくちゃ身体の大きな女の子?背の高いキレイな子でもなく、ぽっちゃりした可愛らしい子でもなく、むちゃくちゃ身体の大きな女の子?
誰だ。
しかもこいつが言うのか?
太陽の塔みたいにバカデカイこいつが?
それから、四、五人の同級生に同じようなことを言われた。
みんなが口をそろえて言った。
「駅で、むちゃくちゃ身体の大きな女の子に、たいせいって知ってる?って聞かれたよ」と。
もちろんみんな知っていると答えた。
するとその女の子は去っていったらしい。
一応、背の高いキレイな女友だちに連絡はいれたし、ぽっちゃりした可愛らしい女友だちにも連絡をいれた。
どちらも、ぼくのことを探していなかった。
一週間くらいは、そのことで高校の同級生にイジられた。
「あの子には会えたか?」と。
「どれくらい大きかったんだい?」とぼくが訊くと、
「むちゃくちゃデカかった」とみんなが言った。
どうしてその子は僕の名前を知っていたのだろう。
どうして僕のことを二、三日の間ずっと訊いてまわって、会おうと思えば駅で待っていたら会えたのに、会わなかったのだろう。
けっきょく彼女はぼくに会わなかった。
ぼくは会いたかったのに。
今だって会いたい。
きっと、優しくて面白くて、ぼくの話にたくさん笑ってくれて、ぼくに嫌なことがあったら、ネオバターロールと大内山牛乳をぼくの目の前に置いて、一緒に食べるか、もしくは自分だけ食べてみせるかして、元気づけてくれるような素敵な女の子に違いない。
きっといい友だちになれた。