誰にだって、胸に秘めたるしょーもない趣味があると思う。
パチパチ心地よい音のする焚火のYouTubeを観るとか、トイレットペーパーの先で鶴をおるとか、バームクーヘンを一層ずつ剥がして食べるとか、他人にオススメする気になんて絶対にならない、しょーもない趣味。
ぼくにも一つ、しょーもない趣味がある。
皆さんは、【恋愛コーチ】を知っているだろうか。
とてつもない量の【恋愛コーチ】が、インスタグラムにいる。
ぼくは、彼らの投稿を見るのが好きだ。
恋愛コーチと聞いて、映画「最後の恋のはじめ方」や「ラブアゲイン」を思い浮かべたあなたに、ぼくは謝らないといけないだろう。残念ながらああいうのとは違う。
恋愛コーチはモテない男のために、モテるための手練手管を教えてくれる。その点については、ウィル・スミスやライアン・コリンズと同じである。
しかし、恋愛コーチはだいたい4~6枚くらいの恋愛術が書かれた画像をひとまとめにして投稿するだけである。
ウィル・スミスやライアン・コリンズのように実地でのトレーニングはしてくれない。
彼らの紹介する恋愛術を見るのが面白い。
まず一枚目の画像は、目をひくタイトルがデカデカと書かれている。
「モテない男 会話の特徴」「マジモテる 会話ネタ」「女の子のこのLINE実は脈ありです」「女の子がキモイと思う男のline」とかである。
たとえば「女子が無理と思う男子」を覗いてみると、①清潔感がない ②女性慣れしてない ③一方的な会話
とか書いてある。まあ、そりゃそうだ。と言える内容で、これはハズレである。
たまに笑えるやつがある。
「女子がキモイと思う男子」とかだ。①からぶっ飛ばしてくることがある。
①二重人格
そりゃ嫌だろうな!と心の中でツッコミをいれる。こういうのを見つけると嬉しくてしょうがない。
そのアドバイスは危険じゃないか?と思うものもある。
「その女子のline実は脈あり」とかだ。
①返信がそっけない(女子は好きな男の子にそっけなくしちゃうよ)
みたいなやつである。これは危ない。
もし僕が中学一年生の頃にこのアドバイスと出会っていたなら、取り返しのつかない大事件を起こしていたかもしれない。
今の中学生は大変だなと気の毒に思う。あの頃、インスタグラムがなくて本当によかった。
そして「女子がキモイと思うline」みたいなタイトルのやつは、ぼくに対して大変に手厳しい。
女子にこんなlineしちゃダメだよ!のチェックボックス、ぼくのlineはだいたい全部にレ点が入る。
①なるべく短文で
さっそくアウトである。だいたいぼくの好きか好きじゃないかの基準はおしゃべりしたいかどうかである。
この理屈でいくと、ぼくは恋をするたびに、好きな女の子にキモイと思われてきたことになる。
どうか嘘であってくれと願うばかりである。
②lineでの連絡は用事だけ
早くもツーアウトである。用事がなくたってどうにかこうにかlineをするのが恋愛の第一歩だと思うのだけれど、これもキモイらしい。
③すぐに返すな
あっけなくスリーアウトである。返せるときには返す。返せるときに返す姿勢でいないと、本当に返せないときに堂々と放置できないからだ。
それに、これは自分に都合のいい考えかもしれないけど、相手がlineを返してくれたタイミングこそ、相手がlineをしたがっているタイミングである。という信念のもとに、ぼくはスマートホンを胸ポケットに入れている。
この後も、チェックリストは十個くらい(多い時で三十個くらい)続くのだけれど、ぼくはほとんど全てにレ点を入れる。
もしもぼくがもっと若ければ、完全に自分を見失っていたと思う。
でもたしかに、用事もないのに長文のlineをドンドコドンドコ送ってくる男は、女性からすれば恐怖の対象なのかもしれない。
ぼくが今までにしてきたlineやメールのあれもこれも、みんな「キモイ」かったのかもしれない。
今日もぼくは、恋愛コーチの投稿をあざ笑いながら、少しだけ冷や汗をかく。