結婚生活という孤島

草枕、恐妻家の芸術論

私がお酒を飲みながらオスカーワイルドの幸福な王子を読んでいる傍で妻は、ふんぬふんぬと筋トレに励んだりする。かねてより妻は妻という肩書きから生じた圧倒的な精神的優位性を活かして私にモラル方面でのドメスティックバイオレンスを繰り返しているが、この上肉体まで鍛え上げてどうしようというのか。肉体的な優位性までも手に入れて私に物理的ドメスティックバイオレンスをしようというのか。私が自らの人権を主張すると妻は、「お母様は私の味方よ」と云う。結婚生活は四面楚歌である。タスケテ!

古参の読者はお気づきだろうがこのブログの黎明期の頃の記事は一切無くなっている。予定が狂ったのだ。結婚したての私は「結婚生活を皆んなに自慢してやろう」と意気込んでこのブログを始めた。見切り発車もいいところであった。結婚したての妻は暇さえあれば指輪を眺めて「夢が叶いました」と少女の様な顔で呟いていた。今となってはスマホばかり眺めて時折こっちを見たかと思うと、腹筋をするから足を持てと言う。ふんふんと腹筋をしながら私に熱い鼻息を浴びせて、満足すると風呂に入って寝室へ行く。寝室でもスマホを見ている。指輪を眺めている少女はもういない。

新婚自慢のつもりで始めたブログは、いつしか友への救難信号へと変わった。結婚生活という断崖絶壁に囲まれた孤島に助け舟を出す友人はいなかった。一度N君が訪れてくれたが、2人してめけめけの世界に行った挙句、結局N君は私を結婚島に置き去りにしていったので私は妻に釜茹での刑を言い渡された。私が置いていくなと頼むとN君は「俺もお前と同じ島で生活をしているし、俺には加えて子どもがいる。お前の島よりももっと過酷なんだ。しかし帰らねばならない」N君は去った。

もはや助け舟はこないと悟った私は救難信号を出すことをやめた。私は断崖絶壁のこの島で、結婚生活におけるサバイバル術を学びそれを後世に残すことにした。

今、私のサバイバル手帳には一文だけサバイバル術が記されている。

「何かと理由をつけて、実家に帰すべし。」